2025/02/09
こんにちは!世田谷区等々力のけいこくの森動物病院です。
犬や猫が苦しそうな呼吸をしている際、心臓や肺など様々な原因が考えられます。
今回は、その中で稀に見られる乳糜胸(にゅうびきょう)について紹介します。
乳糜胸とは?
乳糜胸(にゅうびきょう)とは、胸の中(胸腔)に「乳び(にゅうび)」と呼ばれる脂肪を多く含んだリンパ液が異常に溜まる病気です。乳びは本来、小腸で吸収された脂肪を運ぶリンパ液で、正常な状態では胸管(きょうかん)というリンパ管を通って血液に戻ります。しかし、何らかの原因でこの流れが阻害されると、乳びが胸腔に漏れ出し、乳糜胸を引き起こします。
犬や猫において比較的まれな病気ですが、進行すると呼吸困難を招く危険な状態になるため、早期発見と治療が重要です。
乳糜胸の原因
乳糜胸の原因はさまざまですが、大きく 「特発性(原因不明)」 と 「他の病気が原因」 の2つに分けられます。
特発性乳糜胸(原因不明)
犬や猫では、明確な原因がわからないまま発症することがあります。特に遺伝的に発症しやすい品種もあるといわれています。
他の病気や外傷が原因
- 胸管の損傷:事故や手術による外傷で胸管が破れると、乳びが漏れ出します。
- 腫瘍(リンパ腫など):リンパ腫や胸腔内の腫瘍が胸管を圧迫し、乳びの流れを阻害します。
- 心疾患(心不全など):心臓病による静脈圧の上昇が胸管に影響を与え、乳びが漏れることがあります。
- 炎症性疾患:胸膜炎などが胸管に影響を与え、乳びの流れを妨げることがあります。
- 寄生虫感染:フィラリア症(犬糸状虫症)によって胸管が詰まることがあります。
乳糜胸の症状
乳糜胸が進行すると、胸腔に乳びが溜まり、肺が圧迫されるため、次のような症状が現れます。
✅ 呼吸が苦しそう(呼吸困難)
✅ 元気がなくなる、食欲が低下する
✅ 咳が出る
✅ 胸が膨らんでいるように見える
✅ チアノーゼ(舌や歯茎が青紫色になる)
✅ 体重減少
特に 呼吸が浅く速くなる(パンティング) や 動きたがらない などの症状が見られた場合は、すぐに動物病院を受診しましょう。
乳糜胸の診断方法
乳糜胸の診断には、以下のような検査が行われます。
✅ 胸部レントゲン検査
胸腔内に液体が溜まっているか確認します。
✅ 胸部超音波検査(エコー)
液体の量や肺の状態、腫瘍の有無を調べます。
✅ 胸腔穿刺(きょうくうせんし)
胸に針を刺して液体を採取し、検査します。乳糜胸の場合、採取された液体は 白っぽく乳白色 なのが特徴です。
✅ 胸水の成分分析
胸水に含まれる 中性脂肪(トリグリセリド) の量を測定し、診断を確定します。血液中の中性脂肪よりも 胸水の中性脂肪値が高い 場合、乳糜胸と診断されます。
✅ CTやMRI検査
腫瘍や心疾患が疑われる場合は、より詳しい画像診断を行います。
乳糜胸の治療法
乳糜胸の治療は 「原因に応じた治療」 と 「症状を緩和する治療」 に分かれます。
胸水の排出(胸腔穿刺)
乳糜胸の犬や猫は胸腔に液体が溜まり、呼吸が苦しくなります。そのため、 胸腔穿刺(きょうくうせんし)を行い、余分な乳びを抜きます。
⚠️ 注意点
・胸水を抜いても原因が解決しなければ再び溜まるため、継続的な治療が必要です。
・頻繁に穿刺すると低たんぱく血症になるリスクがあるため、慎重に行います。
薬物療法
- ルチン(Lutein):リンパの流れを改善し、胸水の減少を促すサプリメント。
- 利尿剤:胸水の排出を助けることがありますが、乳糜胸には効果が限定的。
- 抗炎症薬:炎症を抑えるために使用することがあります。
低脂肪食療法
食事管理も重要な治療の一つです。脂肪を多く含む食事は乳びの産生を増やすため、 低脂肪のフード に切り替えます。
🚫 避けるべき食品
- 油っぽいフード
- おやつ(特に脂肪分が多いもの)
- チーズや乳製品
🏡 おすすめの食事
- 低脂肪のドライフードやウェットフード
- 茹でた鶏ささみや白身魚
- 脂肪分の少ない療法食
外科手術(胸管結紮術、心膜切除術)
乳糜胸が慢性化し、内科治療で改善しない場合は、手術を検討します。
- 胸管結紮術(きょうかんけっさつじゅつ):胸管を縛って、乳びが漏れないようにする手術。
- 心膜切除術(しんまくせつじょじゅつ):心膜を取り除き、胸腔内の圧を下げることで乳びの流れを改善する方法。
手術の成功率は比較的高いですが、リスクも伴うため、獣医師とよく相談しましょう。
乳糜胸の予防法はある?
乳糜胸の明確な予防法はありませんが、以下のポイントに気をつけることで発症リスクを減らせる可能性があります。
✅ 定期的な健康診断を受ける
✅ 呼吸の異常に早く気づく
✅ 事故やケガを防ぐ(胸への強い衝撃を避ける)
✅ 低脂肪の食事を意識する(特に乳糜胸になったことがある場合)
まとめ
乳糜胸は、犬や猫にとって 命に関わる病気 ですが、早期に発見し適切な治療を行えば、改善の可能性があります。「最近、呼吸が苦しそう」「元気がない」と感じたら、早めに動物病院を受診しましょう!
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